書き起こし 人間椅子「十三世紀の花嫁」

 私の好きなバンド・人間椅子の曲には、歌詞カードに書かれていない「語り」部分がある曲が幾つかあります。ブレイクの予感がある今こそ、その書き起こしをしてみようかな、と。
 第四回は、アルバム「萬燈籠」より、「十三世紀の花嫁」です。全編殆どが語りの曲です。誤り等、御指摘が御座いましたら、是非教えて下さい。
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「十三世紀の花嫁」
 作詞:和嶋慎治
 作曲:和嶋慎治
 書き起こし:駅員@地獄三丁目駅

 優しさが街角で売られている。大量生産されたサンダルと並んで、ケバケバしい御為ごかしに包まれ、上品そうな顔をして棚を埋めている。
 十三世紀の結婚式のあの日、花嫁の頬には質朴さと恥じらいだけがあった。手弱女の方程式は無限に祝福を繰り返し、宙を舞うブーケには無償の愛が込められていた。
 幸せってのは、手に入れるもんじゃない。小賢しさを捨てて、初めて人は優しくなれるんじゃないのか?

 キリストを芸術家だと言った或る絵描き、貧しさの背後に見たものは運命の煌めきだった。家畜小屋の穴塞ぎに使われたその絵は、画廊で朽ちるより人の役に立つ事を選んだ。
 五人しか読者を持たなかった狂える哲学者、誰よりも絢爛な夢を紡いだ盲目の詩人。栄光を何かの代償と呼ぶのは容易い。賞讃の肉は追う程に遠ざかる物だからだ。
 愛ってのは、蓄えるもんじゃない。何もかも失って、それでも人に捧げられるのが愛じゃないのか?

 束の間の休暇が待ち望まれ費消されて行く。天然の美と人工の楽園への逃避行。自分を探す為に、或いは慰めの為に。だが、偉大な教師は心の中にのみ眠るだろう。
 灯台のサイレンは今も警告を発している。荒くれた海を渡る木の葉に向かって。木の葉こそ大木の投影にほかならない事を、泡立つ世界は木の葉の幻影に過ぎない事を。
 頽廃ってのは、放埓を言うんじゃない。人生を捨てた時から、自ずと人は没落して行くんじゃないのか?

2014/01/18

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