喉が渇いた・白


 喉が渇いた。水が欲しい。俺は今砂漠の真ん中に一人で立っている。日差し、地面からの照り返し、そして乾いた空気。喉がカラカラだ。360度全方位、オアシスらしきものは全く見えない。見えるのは黄色い砂と残酷な程青い空だけだ。
 何故こんな所に一人で居るかと言うと、飛行機が墜落したのだ。俺の趣味は、一人乗りのプロペラ機で自由気ままに空の散歩をする事なのだが、今回は調子に乗って遠くまで来過ぎた。突如竜巻に飲まれ、方向も分からないまま、砂漠のど真ん中に投げ出されてしまったのだ。愛機は影も形もない。
 それにしても、喉が渇いた。水が欲しい。実は、瓶詰めされた水が今手元にある。中身は幸い無事だ。しかし、栓を開ける道具が無い。叩き割ってしまえばよいが、そんなことをしても、水の殆どを砂に飲まれてしまうだけだ。
 私は100円ライターで煙草に火を点けた。水を飲めなくて困っているのに、煙草だけはまだ13本もある。100円ライターの火打石部分の車輪を使って瓶の栓を外す事が出来る事は知っている。しかし、そうするとライターが壊れてしまうのだ。水は飲めるが、火を熾せなくなる。
 動物の糞を見つけ次第、発見してもらえるように狼煙を上げたいと思っているし、何より砂漠の夜は冷え込む。火を熾せないと凍死し兼ねない。
 まだ、汗は出る。ということは、まだ体に水分は残っているのだ。まだ辛うじて汗を飲んで凌げるが、さてどうしたものか。
 俺は今大いに迷っている。喉が渇いた。水が欲しい。しかし、ライターは壊せない。水か火か。今日は何曜日だったっけ? そうか、そっちに賭けよう。
                       (了)2005/06/28


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