灰皿選び


 私は雑貨屋に足を運んだ。今日は灰皿を買いに来たのだ。いや、ちゃんと部屋に灰皿はあるのだが、薄いアルミの灰皿で、吉本の島木譲二がポコポコヘッドをやるような安っぽい灰皿しかないのだ。そこで、もっと良い灰皿を探しに来たのである。
 灰皿の棚には、陶器、樹脂、金属、ガラス…様々な材質の灰皿が置いてあり、大きさや形状、機能も色々ある。選り取りみどりである。
 最初に目に付いた、大きな黄色い灰皿を手に取ってみた。駄目だ、軽い。壁面の内部が空洞になっている様である。ちょっと雰囲気も軽いなあ。もっと重い物でなくては……
 次に、金属製の四角い灰皿を手に取る。ずしりと重いし、この角が良いけど、ちょっと持ちにくい。不便な灰皿では困る。
 続いて、白い陶器の灰皿を手に取る。丸くて大きめだが、耐久性はどうだろうか。簡単に割れてしまっても困る。
 今度は、大き目のガラスの灰皿を手に取る。応接間などに置いてありそうな、ずしりと重くて丈夫そうな灰皿である。これは中々良さそうである。
 そこに店員が声を掛けて来た。
「いらっしゃいませ。灰皿をお探しでしょうか?」
「ええ」
「どういう灰皿がお好みで?」
「卓上に置ける範囲内で、大きくて、重くて、持ち易い物を探しているのですが」
「それなら、やはり今持っていらっしゃる様なガラスの灰皿が良いのではないでしょうか?」
「そうですねえ」
 私は灰皿を掴んで、ちょっと振ってみた。ふと見ると、店員が怪訝な顔で見ている。
「あ、これにします」
 早々と購入を決めて帰った。危ない危ない、灰皿の使用目的がバレる所だった……
                       (了)2005/07/30


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