白球十勇士「発足」


 長野県上田市、戦国時代にこの地には真田氏が居を構えていた。武田に仕え、その城攻めを中心とした権謀術数には定評があり、信玄から重用されていた。しかし、武田が倒れた後、北には上杉、南東には北条、南西には徳川が陣取り、全方位強国に囲まれるという様相となった。ここでも権謀術数は活きており、強国の間を上手く渡り歩き、天下分け目の関ヶ原では、親子が東軍・西軍に別れ、是が非でも一族の存続を図った。その後、真田幸村は豊臣家とともに大阪の陣にて果てる事となったが、勝利した筈の家康に幽かな敗北感を味わわせた事が、家康の手記にも記されている。

 それから400年余りの月日が流れた西暦20XX年。
 長野県上田市にプロ野球新球団、上田シックスコインズが誕生した。今日は、その初の公開練習である。謎の多い球団であり、事前情報は全くと言って良い程無い。
 新球団設立に関しては、仙台の楽天ゴールデンイーグルスの当時の新聞等の記録が手元にあるが、他の球団から選手を引っ張ってきたりしており、そのマスコミ発表は大々的に行われている。それに対して、今回は殆どがベールに包まれている。私が聞いた噂では、監督から選手まで全て地元の人間だと言う。
 一塁側ベンチから、監督と選手達が出てきた。私を含めたマスコミ関係者がどっと駆け寄る。ユニフォームは、青みがかった緑で、胸には白抜きで「SixCoins」の文字がある。帽子は黒に真田家旗印「六文銭」のマークが描かれていた。監督が帽子を脱ぎ、御辞儀をした。口髭のある男である。元プロ野球選手でないどころか、学生、社会人を含めた野球界全体で見た事が無い顔である。
「本日は、我々の拙い球団の御披露目に御越し下さり、誠に有難う御座います」
 礼儀正しいその態度とは裏腹に、その目は野心が溢れ出さんばかりにギラギラとしていた。
「監督を勤めさせて頂く、真田です」
 カメラのフラッシュと同時に質問が飛ぶ。
「すいません、これから練習を始めますので、質問はその後にして下さい」
 同時に放送が聞こえる。
「危険ですので、報道関係者の皆様は、直ちに内野席の方に御移動願います」
 マスコミ関係者は尚も食い下がったが、
「後で時間はたっぷり取りますので、先ずは一旦内野席の方へ御願いします」
 と、取り合って貰えなかった。私を含め、報道陣は渋々内野席に移動した。しばらくして、一塁側ベンチ前で監督以下選手達がストレッチを開始した。
                       (続)2005/08/28


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