白球十勇士 「開幕戦」


 衝撃の記者会見の後、シックスコインズの話題はマスコミ上に急浮上した。しかし、その衝撃は一瞬にして静まってしまった。というのも、それに続く新たな情報が無いのだ。情報が無い物を報道する訳には行かない。出来るのは、憶測かでっち上げだけだ。「真田十勇士の末裔である」と報じる週刊誌や、「あのボールはインチキのパフォーマンスである」と報じるスポーツ新聞……これらの記事は全て根拠に欠ける。
 私はデスクから尻を叩かれながら、全く情報を掴んで来られない自らの無力に項垂れていた。見る見る月日は流れ、結局何も出来ないうちにオープン戦が始まってしまった。

 二月某日、注目のシックスコインズの初試合である。結局ろくな情報を掴めないままである。初戦の相手は通日デラゴンズ、昨年の優勝チームである。投手力・機動力に優れたチームだが、その「急流打線」も侮れない強敵だ。
 私は、早朝から長野に飛び、シックスコインズの本拠地、信濃スタジアムで待った。やがてデラゴンズのバスが到着。私はバスから降りた通日の沖合監督に駆け寄った。
「監督、謎のチームですが、如何ですか?」
「謎なんだから何とも言えないでしょ?」
「そりゃそうですが……」
「そういうこと。じゃ」
 選手に訊いても、監督よりは愛想は良いが、答えは同じだった。

 デラゴンズがウォームアップを始めているにも関わらず、シックスコインズはまだ来ない。もう正午である。あと一時間で試合が始まると言うのに。
 トイレに行っている間に背後から、即ち球場中心部から大きなざわめきが聞こえた。何か起きたのだろうか。私は急いで駆け戻った。見ると球場中央にシックスコインズの選手たちが居た。呆気に取られている私に、早朝新聞の森記者が声を掛けてきた。
「今のどういう仕掛けなんだろうな?」
「え? 何があったんですか?」
「見てなかったのか? あそこにテレポーテーションの様に一瞬で現れたのを」
「え!?」
「そう、まさしく瞬間移動だった。私はずっとグラウンドを見ていたから間違いない」
「そんな馬鹿な」
「皆に訊いてみな」
 そうこうしている内に、両チーム選手はグラウンドから下がった。
 そして、午後一時。プレーボールである。それまでの間、私は呆然と立ち尽くしているしかなかった。
                       (続)2005/09/29


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