白球十勇士「一回表」


 一回の表。通日デラゴンズの攻撃。上田シックスコインズのスターティングメンバーは以下の通りだった。

一番 二塁 猿飛   背番号04
二番 遊撃 霧隠   背番号06
三番 右翼 三好伊  背番号09
四番 左翼 三好清  背番号07
五番 三塁 望月   背番号05
六番 中堅 筧    背番号08
七番 捕手 海野   背番号02
八番 一塁 根津   背番号03
九番 投手 由利   背番号01

 守備位置に散らばった選手は、驚いた事に皆が皆、真田十勇士と同じ苗字なのだった。
 三番四番は二人とも白髭を生やしていて、しかも小柄だ。あんな老人に三番四番を任せられるのか? と思ったが、真田十勇士の話では、三好兄弟は、怪力の入道だったと記憶している。実は怪力なのかも知れない。
 マウンドに上がった由利は、投球練習をしているが、別段球が速くも見えない。軽いボールと重いボールで練習している割には、大した事はなさそうに見える。
 ベンチに目を移して驚いたのは、ベンチには、控え投手の六山の他、真田監督しか見当たらなかった事である。球拾いの少年が二人居るのだが、他には選手が見当たらない。

 そうこうしているうちに、デラゴンズの一番打者・小豆が打席に入って行くのが見えた。
 小豆が構え、由利が投球する。一球目、ボール。球は外に逸れた。球速は130キロ。決して速くない。いや、寧ろ遅いくらいだ。二球目、三球目もボール。いきなりノースリーになってしまった。コントロールの悪い投手なのだろうか。四球目ボール。四球で小豆は一塁へ。

 二番打者・柴田。またもや四球。何てコントロールの悪い投手なのだろう。新規参入チームは、まだ試合慣れしていないのだろうか。

 三番打者・奥留。四球。呆れた。一人も討ち取らないでいきなりノーアウト満塁である。次は四番のモッズだというのに。ベンチの真田監督は薄笑いを浮かべていた。これは何の笑いだろうか。絶望の笑いか?

 四番打者・モッズ。ノースリーで押し出しかと思われた四球目、ストライク。打者四人目にして、ようやくストライクである。モッズは見送った。次もストライクでツースリー。モッズの目付きが変わった。コントロールの悪さから今までは油断していた様である。
 そして六球目。真ん中に来た甘い球をモッズは見逃さなかった。打球はセンター方向に大きく飛ぶ。伸びる伸びる。
入るかと思ったが、フェンスギリギリで筧が跳んでキャッチした。タッチアップで、三塁ランナーが走る。この距離に対して、俊足の小豆である。一点は確実と思われた。

 矢の様な、否その表現は妥当ではないかも知れない。鉄砲の様なバックホーム。小豆がホームに滑り込むよりも早く、ボールはミットに収まった。
 捕手海野がタッチしてツーアウト。海野はすぐにセカンドに送球。セカンドから大きく飛び出ていた柴田も二三塁間に挟まれタッチアウト。シックスコインズ、ピンチから一気にスリーアウトチェンジである。
 ベンチの真田監督は、先程から不動で不気味な薄笑いを浮かべたままだった。
                       (続)2005/10/23


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