コインの旅路 #02 Contribution


 俺は1円アルミニウム貨幣。造幣局から出荷され、その後日本各地を転々とし、今はとある中年女性の財布に居る。と言っても、いつここから出されるかは分からないが。

 中年女性は、買物を終え、駅に向かって歩いていた。が、駅前で足を止めた。そして財布を開くと、その中から俺ら1円玉を取り出して募金箱に入れた。駅前では、震災被害の義捐金を募っていたのだ。募金箱の中には、俺ら1円玉が最も多く、各種硬貨の他、数は少ないが紙幣の連中まで居た。
 そして夕刻、募金は事務所に運ばれた。集計が終り、募金は被災地に送られた。送られたとは言っても、俺らは銀行に運ばれるだけで、俺ら貨幣が直接被災地に運ばれる訳ではない。
 翌日、銀行に近所の商店主が現れた。お釣のために1,000円札を1円玉に崩しに来たのだ。50枚ずつの束にされた俺ら1円玉は、無造作に袋に入れられ、持ち出された。その後俺は何時間も商店のレジの中で昼寝をした。今日一日はゆっくり過ごせそうだ。
 と、思ったのも束の間、午後に買物客へのお釣に使われ、俺はレジを出た。買物客は、奇しくも昨日の中年女性だった。またかよ。若いお姉ちゃんの財布の方が良いのになあ。とは言っても、向こうは俺なんかに気が付く筈も無い。
 昨日とは違う名目ながら、今日も駅前では募金活動が行われていた。俺は募金箱に放り込まれた。昨日と同じ事の繰り返しかよ。今日は「恵まれない子に愛の手を」だそうだ。

 夕刻、募金は事務所に運ばれた。が、昨日とは趣が違う。募金活動をしていた若者達が帰った後、俺らは金額で四等分された。
「あ、待て待て、さっき帰したバイトの賃金をどけておかないと」
「ああ、そうだな、時給1,000円で一人5時間、10人分…幾らだ?」
「5万円ですね」
「売上は?」
「約9万です」
「4万浮きか。一人1万だな」
 募金のうち4万が、四人の男に分配され、それぞれの財布の中に入れられた。俺は四人のうち、いかにも善人面をした爽やかな男の財布に収められた。
                              続


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