白球十勇士「二回表」


 二回の表。通日デラゴンズの攻撃。現在上田1-0通日。
 通日の沖合監督は腕を組み、一塁側ベンチを睨んでいた。一回の攻防を見て、そのポテンシャルの高さに驚いていた。シックスコインズナインの野球の経験はどう見ても浅い。しかし、その身体能力の高さには目を見張る物がある。鉄砲の様な返球、ゴロをランニングホームランにする俊足。侮れない。
「お前等、油断は一切するな。一見素人だが、常軌を逸した身体能力がある」
 沖合にしては珍しく早い段階からの指示である。通常はピンチやチャンス、試合の流れを変える転機以外は無言の男なのだが。
 ベテラン田繋は、沖合とは長い付き合いであり、言わんとしている事を素早く理解した。バッターボックスには、アネックス。その次は田繋の打順である。

 シックスコインズ先発・由利は、相変わらず余裕の表情を浮かべている。五番打者アネックスはガムを噛みながら好球を待つ。その一球目は外郭低めストライク。球は決して速くはなく、打とうと思えば打てる球である。二球目、ボール。三球目、ストライク。そして、四球目、ど真ん中に来た。アネックスはここぞとバットを振る。
 ボールは放物線を描いて飛んで行った。打球は、レフト手前に。レフト三好清は、全くボールの動きに追い付けていない。ボールが落ち、アネックス出塁。

 続く六番打者、田繋。田繋は、由利に見える隙を見逃さなかった。田繋はバントの構えを見せた。由利は、バント失敗を狙い、ボール中心に組み立てる。カウントは2-3。その六球目。田繋は甘く入った球を見逃さなかった。バント解除し、素早くバットを振る。……バスター。打球は低い弾道でライト方向に飛んだ。それに慌てて、躓き転ぶライト三好伊。走るアネックス、田繋。
ノーアウト、ランナー三塁二塁。

 七番打者、青海苔。フォアボールで出塁。田繋の奇策に動揺した由利は、コントロールを失っていた。その顔には余裕はもう消えている。ノーアウト満塁。一回と同じノーアウト満塁だが、その雰囲気は全く違っていた。沖合は、敵将真田の顔を盗み見た。真田はもう笑っていない。
 続く八番打者、蟹重。その三球目で、その真田の顔は一気に険しい物になった。三球目の直球に対し、蟹重のフルスイング。打球は大きく飛び、ライトスタンドに突き刺さった。満塁本塁打。一気に4-1と、試合の流れが引っ繰り返る。真田はマウンドに向かった。ナインがマウンドに集結する。何か指示を受けた由利は二三度頷いている。

 続く九番打者、沢上。その目の前で、先程とは打って変わった目付きの由利が投げた球は……球場中の選手の度肝を抜いた。
 すっぽ抜けたかに思われたボールが不自然な軌道でミットに収まったのだ。判定はストライク。物凄く曲がるカーブなのか? だとしてもそれは常軌を逸していた。まるで遠隔操作のように曲がるその球は、最早新種の変化球だった。続く打者は三者連続三振で、スリーアウトチェンジ。
                       (続)2005/12/04


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