戦国武将殺人事件(解決篇)


 パーティー会場の中央に横たわる織田の死体。その胸には矢が刺さっている。それが致命傷となり、ほぼ即死と思われた。そばには倒れる時に引き摺り下ろしたと思われる真っ白なテーブルクロス。その一部は死体から流れ出た血で赤く染められていた。そして、一箇所割れた窓。それを取り囲む明智、上杉、斎藤、真田、伊達、毛利、武田。

「内部の犯行?」
「その通り。外から織田を狙うのは不可能だ。残念ながら、犯人は俺達の中にいる」
 俺の言葉を聞き、喧騒は静まった。
 しばしの沈黙を破り、上杉が言う。
「矢か。矢と言えば、毛利元就は三本の矢の話で有名だな」
 一同が毛利の方を向く。
「毛利! 貴様!」
「俺じゃない! そんな事で俺を疑うのか!?」
「いや、毛利ではない。そんなこじ付けで殺人犯にされちゃたまらないよな?」
 俺は一同を押し留める。
「毛利ではない? という事は、もしや犯人が分かっているのか?」
「ああ、顔を見ただけで犯人は分かった。停電の瞬間の事を思い出せ。辺りは真っ暗になった……」
 言いかけた所で、上杉が口を挟む。
「真っ暗! 明智、お前か! お前、やけに手際良く停電を直してたよな? 真っ暗の中を。織田にあごで使われるのに嫌気が差して、本能寺の変のつもりか!?」
「違う。俺は織田の執事だが、あいつに恨みなんか一切持っていない。寧ろ、失業した俺を拾ってくれて感謝している」
「じゃあ、真っ暗なのになんであんなに手際良く?」
「前に停電があった時にブレーカーの場所は覚えているし、廊下に出れば非常灯もある。非常灯の電源は別だから、ブレーカーが落ちても復旧には手間取らない」
「停電の復旧の早さを考えると、寧ろ明智は白だ。こいつはその間、部屋を離れていたのだから。他の人間が非常灯のみの明りで、ブレーカーまで辿り着くのは困難だと思われるしな。それより明智、ブレーカーの所に何か細工は無かったか?」
 俺の問いかけに、明智はハッとした顔をした。
「取り急ぎ会場に戻ったから、言い忘れていたが、何やら縄と重りと蝋燭を組み合わせた仕掛けがあった」
「時限装置か……後で確認しよう。まずは犯人を逮捕してからだ。で、さっきの続きだが、真っ暗の中、同じ様な武者姿の人間をどれが誰だか見分けるのは困難だ」
「そりゃそうだ。無差別殺人か?」
「いや、この中に一人だけ夜目が利いた人間が居る」
「夜目が利いた?」
 上杉はそこに集まる面々を見回した。暫くして上杉は真田に目を止めた。
「真田十勇士には、忍者も…」
「ストップ。お前はこじ付けが多いなあ。もっと合理的に考えろ。顔を見ただけで犯人が分かる」
 再び見回す上杉。
「分かった! 伊達だ」
 手当り次第に犯人扱いする上杉に、最早誰も反応しなくなっていた。
「御名答」
 続く俺の言葉に一同は大きく息を飲む。
「そんな! 俺じゃないぞ! 何が証拠だ!?」
 伊達は食って掛かって来た。
「歴史好きの上杉、教えてやれよ」
 俺は上杉にその証拠を促した。
「眼帯だよ。独眼竜伊達政宗は、右目を眼帯で覆っていた。しかし、今のお前は左目に眼帯をしている」
「それが何だよ。間違えただけだ」
「いや、事件の前には右目だった。もし最初から間違えていたらパーティー中、俺がそれを指摘しない筈が無い」
「眼帯が何だって言うんだ!」
「予め右目を塞いであった場合、停電時に眼帯を逆にする事で、明るい会場に慣らされた我々よりも遥かに早く闇に順応出来た。闇に乗じて織田を殺したんだな!」
「くっ…!」
 窓から赤色灯の明りが見える。俺が呼んだパトカーが到着した様だ。
「よし、後は署の方でじっくり聞こうか?」
 俺は伊達の肩に手を置いた。
 玄関から刑事が入って来た。後輩の山本だ。
「あ! 武田先輩!」
「おう、山本か。これから署に連行する」
 伊達を二人ではさんで連れ出そうとする背中に、上杉が言った。
「おい、さっき非番がどうのこうのと言ってたけど、お前、刑事だったのか?」
「ああ、非番だろうと、友人だろうと、しょっ引かないといけない、嫌な仕事だ」
                       (了)2006/01/14


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