難攻不落の要塞


 敵の銃撃は止む事が無かった。多勢に無勢である。我々は逃走を余儀無くされた。敵の銃撃をかわしつつ森を抜け走ると、旧時代の建物と思われる三階建てのビルがあった。
「あのビルに逃げ込むぞ!」
「了解」
 我々四人はビルに駆け込む。隊からはぐれた我々は、不幸にも敵兵に見付かり、集中放火を浴びる羽目になった。軍曹以下兵士三名という構成で、兵の一人、鈴木が負傷している。
「まずは鈴木の応急処置だが」
「軍曹、こちらに医務室らしき部屋があります」
「よし、佐藤は鈴木をそこに運び治療。高橋はここで見張りだ」
「了解」
 軍曹はてきぱきと指示を出した。私は命令に従い、鈴木を医務室に運び、棚から使えそうな薬剤を探した。幸いベッドがあったので、そこに鈴木を寝かせ、救急パックから消毒液を取り出した。
 医務室の入口では、軍曹と高橋が、銃を構えている。
「高橋、敵の動きは?」
 高橋は医務室扉から、ビルの入口を伺う。
「まだビル内には侵入していない模様」
「警戒しているのか……よし、ここは俺が見ておく、お前はビルの奥に進み、応戦に使えそうな物を探してきてくれ」
「了解」
 軍曹に命じられた高橋は、医務室を出て、廊下を入って来たのとは反対の方向に進んだ。その間、私は鈴木の応急処置を続け、何とか弾を取り出し、消毒した上で包帯を巻いた。敵はまだこちらの様子を伺っている様だ。その時、高橋から軍曹に無線が入った。
「ちょっと来て下さい。旧時代の遺物ですが、監視カメラ等はまだ生きている模様です」
「分かった直ぐ行く」
 そう言うと、軍曹は無線を切り、佐藤の方を向いた。
「佐藤、鈴木を連れて、俺について来い」
「了解」
 私は鈴木を負ぶって、軍曹に続いた。高橋が居た部屋には、複数のモニターが並んでいた。
「御覧下さい、この監視カメラ、かなり高性能な様です」
 モニターには、外の様子や部屋、廊下の様子が映し出されていた。門の近くの岩陰に敵兵が潜伏している様がありありと見えた。
「どうやら門を遠隔操作出来、このアラームを起動しておくと、外部からの侵入を検知出来る様です」
「よし、入れておけ」
 高橋はスイッチを押した。モニターでは、門が閉まっていく様子が見えた。それを見て、敵兵の何人かが慌てて門に向けて銃を構えている。
「暫くは入って来ない様だな。アラームが鳴るまで休憩しよう。走り続けで疲れているだろう」
 我々は少し眠った。

 眠りを破ったのは、アラームのけたたましい音だった。緊張が走る。飛び起きてモニターを見ると、敵兵が門を乗り越えようとしているのが見えた。
「アラームを止めろ! 音が鳴り続けていると、居場所を悟られる」
 軍曹の指示で高橋は急いで機器の前に駆け寄る。しかし、アラームをONにしたスイッチを押しても反応は無かった。高橋は慌てて、その横のスイッチを押した。
 次の瞬間、門が光ったと思うと、モニターに移る敵兵が大きく後ろに跳ね飛ばされた。電流が流れる仕掛けらしい。
「こんな機能まで付いていたのか……」
 しかし、安心したのも束の間、敵兵は手榴弾で門を吹き飛ばし、走って侵入して来た。アラームはより高い音を立て始めた。モニターの一つに文字が表示されている。
「強行侵入者有り」
 ビルの入口の方からは、女性の声が聞こえる。
「警告! 無断立入は禁止されております。御用の方は速やかに門まで戻り、インターフォンをお使い下さい。警告! 無断立入は…」
 声は同じ言葉を繰り返していた。敵兵はそれに構わず突進して来ていた。
「戦闘準備! 敵が侵入してくるぞ!」
 軍曹の指示の元、鈴木を除く我々は銃を持った。部屋を飛び出し、入口から真っ直ぐ伸びる廊下の両脇に散り、物陰に隠れる。廊下の先には敵兵らしき人影が見えた。
 威嚇射撃をしようとしたその時、天井から敵兵めがけ、網の様な物が発射された。網は敵兵数人にに絡み付いた。私はその網に絡まれた人の塊をサブマシンガンで掃射した。
 それから数時間、このような攻防が続いた。
「軍曹、全てのモニターをチェックした所、敵兵全滅の模様です」
「よし、撤収して、本隊に合流するぞ」
 我々に安堵の空気が流れ、我々はゆっくり歩き出した。
「それにしても、この建物の設備は凄いですね。我々の軍の施設でも舌を巻きそうなくらいだ」
「そうだな。旧時代にこれ程の技術が発達していたとは驚きだ」
「オーパーツですね。とても当時の技術でこんな物が作れるとは思えない」
「いや、遠い古代の話だからな。我々の想像を越えた世界だったという可能性もある」
「こんな優れた文明が何で滅びたのでしょうね?」
「さあ、それは分からんが……きっと、ここは当時でも難攻不落と恐れられた砦なんだろうな」
「そうですね……何と言う砦なんだろう?」
 足元に、敵兵が爆破した門の柱があったので、その表面の砂を払ってみた。文字を読んで私は呆気に取られてしまった。
「どうした?」
「ここ、旧時代の小学校みたいです……」
                       (了)2006/01/14


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