運の良い奴


 友人Aは運が良い。ある日、Aが丼屋に食事に行った時、注文をしようとすると、店員が頭を下げた。飯が切れているとの事。丼屋なので、メニューは丼しかない。店内を見ると食べている人がぽつぽつといる。ついさっきなくなった所のようである。店員は、「急いで炊いているので、あと二十分待てば食べられる」と言う。しかし、そんなに待つ気はないので、店を出た。僕はその話を聞いた時、そんな経験はそう出来るものじゃないから、運が良いなと思ったのだ。
 友人Bも運が良い。Bが九州に出張した時に、台風が上陸し、飛行機は全て運休。Bは結局その日は帰れず、九州に泊まる事になった。僕はその話を聞いた時、そんな経験はそう出来るものじゃないから、運が良いなと思ったのだ。しかも、日帰りの忙しいスケジュールが、ゆっくり泊り出張に変わったわけだし。
 友人Cも運が良い。電器店でデジタルオーディオプレーヤーを買って帰ってみると、箱の中が空っぽだった。Cは混乱し、レシートに書いてある店の番号に電話をかけた。店の見本に置いてあった物が最後の商品で、それを箱に収めるのを忘れて渡したのだという。Cは翌日レシートを持って、それを引き取りに行った。僕はその話を聞いた時、そんな経験はそう出来るものじゃないから、運が良いなと思ったのだ。
 友人Dも運が良い。僕が旅行に行っている間に、首都圏で大停電が起きたのだが、その時、Dは都内にいて、見事に真っ暗になった地下鉄の駅で電車を待っていたのだという。いくら待っても一向に電車が来る気配がないので、やむなく引き返したとの事。僕はその話を聞いた時、そんな経験はそう出来るものじゃないから、運が良いなと思ったのだ。
 友人Eも運が良い。Eが卵かけご飯を食べようとして、ご飯の上で卵を割ると、中からどろどろの表皮を纏った、ヒヨコになりかけの状態が出てきた。Eは気持ち悪くなったそうだが、僕はその話を聞いた時、そんな経験はそうできるものじゃないから、運が良いなと思ったのだ。しかも、それをゆでた物は、ある国では珍味だと言うではないか。
 僕の友人はこのような経験が出来て、非常に運が良い。それにひきかえ、事件一つ経験出来ない僕は、何て不幸なんだ。
                       (了)2007/09/09


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