エイリアン襲来


 その日、私はバスに乗って家に帰る所だった。バスは最終バスで、乗っているのは私の他、定年間近と見える白髪の多い会社員らしき男性、金髪厚化粧のヤンキー姉ちゃん、そして運転手のみだった。
 駅前のバス停を出て、暫く走ると静かな道になる。窓の外には灯りの点いている家は殆ど無く、その景色は、所々に小さな穴の空いた漆黒のカーテンの様だった。あと十数分もバスに揺られれば家である。早く帰って寝たい。
 その時、バスが急ブレーキを掛けて停まった。前方から強い光が見える。何事かと見ると、二足歩行で頭が大きく、全身がつるっとした生物が空から降りてきた。
「○△☆◎・・・?・・・//・・・」
 その生物は目を点滅させながら、口の無い顔から奇妙な音を発した。それを見た私の第一印象は「宇宙人」だった。
 宇宙人は窓を割って社内に侵入し、運転手を見つめ、その三本指の手で首を掴んだ。運転手はただ震えるのみ。
「×▼□」
 音を発しただけで何もせず、次に、乗客の会社員の首を掴んだ。異変が起きているのに、呑気に眠っている。
「×☆」
 また何もしない。一体何をしているのだろうか?血液を採取した様にも見えない。触られた人間は震えるばかりで何ともなさそうだ。
 次に金髪に同じ事をする。金髪は激しく抵抗したが、宇宙人には全く応えていない。宇宙人はそれを制するでもなく、ただ音を発した。
「★◇@」
 次は私に近付いて来る。実際怖かったが、前の三人を見ていて、何もされない事は分かっていたので、ただ大人しくその「儀式」に付き合う事にした。逃げ出したら逆に襲われそうだ。
 私にも同じ事をした宇宙人は、目を大きく見開いた。さっきまでと反応が違う。宇宙人の顔が左右に割れて、飴のように伸びて広がり、私を丸呑みにした。な、何故? 心当たりが全く無い。善良を絵に描いたような私なのに……

 何故私だけが食われたのか? 死んでから分かった事だが、この宇宙人は私と同じく、食の安全性に気を使う者だったのだ。以下は、私の死後、他の乗員の事情聴取時のコメントの抜粋である。

金髪「チョー怖かったです。あたし真っ先に食われると思いました」
警官「金髪、派手な服とメイク、二の腕にタトゥーじゃ目立つものな」

運転手「煙草、戴けますか?」
警官「ああ、どうぞ。随分ヘビースモーカーですね」

会社員「健康な青年が死んで、私の様な老いぼれが生き残るなんて。体にもガタが来ていて、今年から遺伝子治療まで受けているんですよ?」
                               了


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