先程まで、遅れていた東海道歩きの日誌を書き終え、ようやく今日書きたかった日記です。
今日は早く帰れた事は書きましたが、乗った電車が私が降りる駅よりもちょっと前で止まる電車でした。辺りはもう暗く、風もあって涼しかったので、乗り継ぎを待たずに降りて歩きました。
途中に並木道(並木道と行っても、木々の間に細い道がある感じで、並木道と林の中間くらいの道です)があり、そこを通りました。昼間や夕暮れならまだしも、暗くなってからわざわざ並木道を選んで歩いても風情もへったくれもありゃしません……と言いたい所ですが、歩いた甲斐はありました。
しばらく歩いていると、足元から、ジジジと鳴き声を鳴らして蝉がくるくると跳ね回りました。暗くて気が付かなかったので驚きました。恐らく、もう飛ぶだけの体力が残っていないのでしょう。憐れ、彼は今日までの命かも知れません。
それに気付いてから、暗いながらも足元を気にしながら歩く事にしたのですが、今度は何やらゆっくりと動く小さな物が目に入りました。蝉の幼虫です。今、まさに命終えようとしている蝉がいれば、これからまさに大人になろうとしている蝉もいるわけです。
道は、レンガ風ブロックを敷き詰めた硬い歩道でした。ここを這いずり回っていても、木に辿り着くまでは結構距離があります。これから時間をかけて、あの木のどれかに登るのでしょうか。ふと、気が向いたので、それを拾って木に停まらせました。これで、間違って木に登れずに成虫になれなかったという憂き目を回避出来て居れば良いのですが……
ちょっと歩くと、またしても蝉の幼虫。それを見て、「先程の蝉は高い所に置き過ぎたかな」と思い、今度は木の根っこのあたりに置いてみました。しばらく、登るかどうかを見てみたかったのです。ところが、なかなか登ろうとしません。それどころか、木の根を先の方に向かって下って行きます。私が選んだ木は気に食わなかったのでしょうか? すると、先程の蝉も、もしかしたら木を降りているのかも知れません。という事は、私が彼等を助けたと思ったのはただの自己満足であり、余計な御節介だったのかも知れません。
もう少し歩くと、またしても蝉の幼虫です。また拾おうとしましたが、丁度犬の散歩をしている人が見えたのでやめました。それに、拾って木の幹、或いは根元まで運んでも、それが果たして良い事なのかどうか。
並木道を抜けるまでにまだ何匹も見付けてしまいました。せめて、踏まないようにだけ気を付けて通る事にしました。前方に何者かの気配を感じてふと眼を上げると野良猫と目が合いました。近付くとダッシュで逃げました。猫はもしかしたら、蝉の幼虫を狙っていたのかも知れません。
並木道を抜けると、存外強い風が吹いていました。並木道に居た蝉の幼虫たちは、これから木に登って、背中が割れて、成虫が出て来て、羽を乾かして真っ直ぐにして、ようやく空に飛べます。風が強かったが、果たして、彼等はちゃんと跳べる状態にまでなれるだろうか? たまに、羽がねじれ曲がって地面を這い回っている蝉を見付ける事があります。羽を乾かす時に失敗した個体です。風が強いと、途中で落ちてそういう風になってしまう可能性もあります。また、上手く成功しても、1週間後には、この道の入り口付近で見た蝉のようになってしまうわけです。何と、生と死が隣り合った生き物なのか、と思いました。
駅員@蝉の子の 目に映るのは 天か地か
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